日本パワーファスニング株式会社

エグジット後の経営にまで思いを馳せる。それが、他のどこにもない、私たちらしさ。

1964年の創業以来、業界をけん引してきた日本パワーファスニング(以下、JPF)。国内では希少なファスニングの上場メーカーであり、100以上の特許に裏付けされる高い技術力を持ちながら、過去3年間減収減益が続くという赤字体質に陥っていました。上場企業への上場維持型マイノリティ投資を専門とするアドバンテッジアドバイザーズ(アドバンテッジパートナーズのグループ会社・以下AA)がこの企業へのターンアラウンド投資を決めた経緯とは。AAディレクターの鈴木とアソシエイトの山下が語ります。
(2020年11月インタビュー記事を元に編集)

この記事のポイント

  • 赤字経営からのターンアラウンド投資。
  • 中国からの撤退と、思い切った方針転換。
  • エグジット後の成長まで見据えた支援スタイル。

基本情報

  • 投資時期:2019年8月
  • 業種:建設用特殊ネジや締結工具などの製造・販売
  • 企業タイプ:上場企業
  • 背景:数年間続く減収減益と赤字決算

技術力は高いのに、収益性が低い。つまり、経営改善の余地は無限大。

鈴木:「ファスニング」とはモノとモノを留め付けるという意味で、そのための部品がファスナーです。JPFは皆さんがイメージする衣料用のファスナーではなく、工事現場で部材を留め付けるためのネジやボルトの専門メーカー。「ネジなんてどれも同じじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実はメーカーの技術力によってかなり品質は異なります。強度が高い、施工性がいい、錆びない等様々な変数があり、JPFはどの領域においても高い技術力を持っています。特許数100以上はおそらく日本一ですし、開発力や製造に関する知見は国内の競合他社と比較してもかなり高い。そうした状況にも関わらず、この数年は減収減益が続き、投資実行時の決算では営業利益がマイナス2.7億円という数字になっていました。


山下:マーケット全体を見渡してみると、営業利益率5%以上の実績を出している同業他社も少なくありません。コスト重視で、海外の安価な製品に負けている、といった市場構造ではないため、現状利益が出ていないのは明らかに自社要因だろうと判断しました。収益性の低さは、捉え方によっては競争力がないというようにも見えますが、こういった市場構造ゆえ、AAの判断は真逆。相当な改善余地があり、最低でも競合他社レベルまでは戻せますし、技術力の高さを活かしてさらに伸ばしていけると考えています。


鈴木:プライベートソリューションズ投資事業の責任者である古川がソーシングした案件で、初回面談でCFOの方に資金調達と経営支援の両面でサポートできることをお伝えしたところ、2週間後に社長から直接ご連絡をいただいて、当社でお会いし、具体的に進めていくことになりました。工場の生産性UPや製造業の事業計画立案といったAAの事例に興味を持っていただいたのだと思います。その際に社長からも「本当は大きなポテンシャルがあり、具体的な利益目標や、事業の選択と集中など、今後取り組んでいくべき」、と方針についてのお話をいただき、経営改善へのトップの意欲を感じたことも、AAとして投資を決めた一因になっています。


マーケットと自社の状況を冷静に読み解いて、進むべき道を決めていく。

鈴木:1年目は「止血期」と位置付けています。現在の経営状況を細かく分析し、赤字になっている領域を改善、または撤退する。JPFは大きく分けて2つのビジネスを推進しているのですが、1つが住宅メーカー向け事業、もう1つがインフラなどの一般建築向け事業です。前者の住宅業界は人口減少といったマクロ的な要因もあり、中長期的に苦しい領域。一方で一般建築は、公共工事を含めて増加傾向にあります。50年ほど前に整備した道路やトンネルの老朽化が進んでいるため、高度成長期に起こった公共工事の山がこれからもう一度来るようなイメージです。ところがJPFはこれまで、苦しい住宅メーカー向け事業に注力していました。マーケットの状況と自社の方向性がマッチしていなかったわけです。


山下:これまで技術を中心とした開発・製造で拡大してきた会社なので、企画の機能が弱く、マーケット分析を行わないまま既存ビジネスを続けてきたことは低収益化の要因の一つだと考えています。また過去に住宅業界向け事業で成功した経験も、軸足を移行する意思決定を阻害していた一因かもしれません。そこで我々がファクトベースで市場の現状と今後の戦略をご提案して、一般建築向けにシフトするべく全力で会社を動かしているところです。


鈴木:もう1つ同時に推進したのが、中国からの撤退。30年ほど前に進出して当時は拡大路線を掲げていたようですが、なかなか顧客獲得が進まず、ズルズルと赤字を出し続けている状況でした。社長としても、以前から選択肢として撤退は考えていたようです。我々も役員会などでデータを提示しながら意思決定の後押しをさせていただきました。新型コロナウィルスの影響も受けましたが、無事2020年1月に撤退が完了しPLの改善にも寄与しております。国撤退含む多面的な経営支援が奏功し、2021年上期は8期ぶりの黒字を実現することができました。


山下:2年目3年目以降の飛躍期に向けた種まきとして、注力すべき一般建築向けの新商品開発を進めています。我々はファスニングの専門家ではないので、直接製品アイデアを考えることはできません。ただ、製品開発の仕組みと体制を整えることはできる。これまでのプロダクトアウト型の開発フローを一新し、営業の最前線で得られる顧客ニーズを迅速に開発チームにフィードバックできる体制に変革しました。すでにいくつかの新製品はリリースされています。市場の反応はこれからというところですが、こうした取り組みが実を結べば、非連続な成長率を達成できると確信しています。

長期的な改善のために何よりも大切なのは、人の気持ちに寄り添うこと。

鈴木:赤字事業の撤退や製品開発フローの改善、マーケットを分析して注力事業を決めるといった施策は、コンサルタントなら誰もがおこなう一般的なアプローチでしょう。AAは株主および社外取締役として年単位でサポートしますので、通常のコンサル会社よりは深く支援できることも特徴です。ただ、本当に重要なのはそこではありません。私たちが最も重視しているのは、「人の気持ちに寄り添うこと」です。トップダウンでいきなり「明日から住宅向け事業ではなく一般建築向け事業に切り替えろ」と言われても、これまで最前線で走ってきた方の心には届かない。だからこそ私たちは、できる限り密にコミュニケーションを取り、ハードとソフトの両面から改革を推進しているのです。私自身、投資前後に100回近くは面談やディスカッションをおこなっていますし、山下は工場にもよく出向いて多くの方々と日々議論しています。


山下:工場の生産性向上や各施策の進捗管理、営業支援など、かなり幅広くサポートさせていただいています。経営レベルでの意思決定に加え、現場の皆さんとも多くコミュニケーションをとることで、サンドウィッチのような形で考え方を社内全体に浸透させていくことが大切だと考えています。ただし、全社レベルで改革していこうと思うと、私たちだけでできることには限界があるのも事実です。各現場でリーダーシップを発揮してくれる人を見つけ、彼らに火を付けていく必要があります。そうでなければ、我々がエグジットした後に業績が元に戻ってしまう可能性もある。それでは改革の意味がありません。その点は、支援初期から非常に意識して取り組んでおります。


鈴木:アドバンテッジの理念にも入っている話ですね。AAとしてリターンを上げるという観点だけで言うなら、エグジット後にその企業がどうなるかは関係ないのですが、私たちは社会的に意義のある集団でありたいという強い想いを持っています。私が入社したのも、代表である笹沼とフォルソムが作り上げたこの理念に共感したことが大きな理由です。投資期間である3年~5年を超えて、さらに長い視点で企業価値が上がる体制を作りたい。そうした想いに共感した人が集まっているのが、アドバンテッジグループです。これからも、この想いを実現するために邁進していきたいと思っています。