株式会社キット
単純な規模拡大は追求しない。
強く、価値あるグループ基盤の確立を目指して
キット=Qitは、Quest it togetherの頭文字。お客様の未来をともに探求するというスタンスで、製造業を中心としたクライアントに人材アウトソーシングサービスを提供しています。アドバンテッジパートナーズ(以下・AP)が投資を実行したのは2020年12月。それ以前は別のファンドを株主としてIPOを模索していましたが、期間内に実現できずAPが引き継いだ形になっています。以前のファンドとの違いやAPに対する期待についてなど、グループ代表の石垣社長に、担当プリンシパルの西村がお話をうかがいます。
(2021年09月インタビュー記事を元に編集)
この記事のポイント
- 複数のメンバーによる高い頻度でのミーティング。
- 規模を拡大する前に、まず既存事業を強くする。
- オペレーションの改善と社員教育を同時に実現。
基本情報
- 投資時期:2020年12月
- 業種:法人サービス
- 企業タイプ:非上場企業
- 支援内容:ファンドによる株式譲渡
企業理解を深めるために、徹底的に掘り下げていく。
西村:キットさんはAPの投資前にも別のファンドが入っておられて、いわゆるfund to fundという形で株主変更になったわけですが、2020年12月の投資からここまで、率直にどう感じておられますか?
石垣:半年ほどしか経っていないので、本格的な変革はまだまだこれからだと思っています。ただ、現時点で一つ言えるのは、非常に面倒で大変なところまで一緒にやってくれているということ。ここまで深く入っていただけるとは正直思っていませんでした。
経営会議、営業会議、採用会議・・・。相当細かいところまで見なければ事業会社の本質を把握することはできないと思うのですが、すべてまったく手を抜かずやってくれている印象です。前のファンドにも色々なことに取り組んでいただいていましたが、接触頻度は以前に比べて圧倒的に増えました。APの皆さんは普段から忙しいはずなのに、大変ありがたいですね。
西村:他のファンドさんと比較してどうかというのは私も分かりませんが、石垣さんと経営全体に関するミーティングをおこなうのが週に1回。グループの各事業会社さんとも別途プロジェクトベースで打合せをしていますから、全体で言うとかなりの頻度にはなりますね。もちろん1人ですべてはできないので、現在は5名体制でご支援しています。
石垣:非常に素晴らしいメンバーを揃えていただいたと思っています。以前のファンドさんからも、誰を担当につけるかはかなり慎重に検討すると聞いていました。我々のことを深く理解した上でメンバーを選考されたということが伝わってきます。
西村:グループ会社の数も多く、今後の打ち手も幅広いので、少人数ではカバーしきれません。当初から、しっかり人数を揃えて汗をかけるチームを構築しようと議論していました。
石垣:もともとオーナーカンパニーだったところから、最初のファンドと資本提携してIPOを目指すことになったのですが、新しい体制に不安を覚える社員も多かったんですね。積極的なM&Aや事業展開によってグループ全体で2倍以上の規模になったものの、内部がついていけずに期間内でのIPOは実現しませんでした。その後APさんに引き継いでいただいたわけですが、接触頻度が上がったことで組織体制や方向性に対する不安は払しょくされたと感じています。今度は順調にIPOに向かって進んでいけそうですね。
IPOを目指すいちばんの理由は、社員のため。
西村:キットさんは元々非常に強い事業基盤を持っておられます。特に自動車や半導体を中心とした技術者派遣はニーズも高く、クライアントもしっかり掴んでおられるので、採用機能を強化することでIPOに向けてしっかり伸ばしていけると考えています。
石垣:たしかに採用面はちょっと弱いところですね。事業規模が拡大したことで今まで以上に強い競合とも伍して戦っていかなければならないので、このタイミングで徹底的に改善できればと思います。
西村:採用の方法論としては非常にシンプルで、応募数をどう増やすかということと、面接設定率や内定承諾率等の採用プロセスの歩留まりを上げるためにどうするかという2点に尽きます。この両方で地道にPDCAを回していけば、着実に採用力を上げることはできるでしょう。
追加で1つポイントを挙げるとすると、デジタルマーケティングの活用。これまではそれぞれの事業会社が個別に採用を進めていたこともあり、グループ全体のオウンドメディアを作成してキットグループとして集客できる仕組みを構築していくつもりです。
石垣:以前のファンドはM&Aを活用した規模の拡大を積極的に行いました。一方でAPさんは、既存の事業会社がそれぞれ持っているポテンシャルの見極めと底上げから着手してくれています。もちろん今後M&Aも検討していきますが、まずは各社のレベルアップを図ることでグループの基盤を強化することができる。これから大きく変わっていく部分だと期待しています。
西村:ありがとうございます。先ほども申し上げた通り、自動車のEV領域や自動車整備士、半導体の製造装置メンテナンス関連などユニークで強力な事業群をお持ちなので、既存事業をさらに磨いていくことがIPOに向けた最善の道筋だと確信しています。また、M&Aに関しても単に規模を足し上げていくのではなく、キットグループにとって本当に必要な候補先企業を慎重に検討していきたいですね。
私としてはこのまま順調にいけば間違いなくIPOは実現できると思っていますが、石垣さんはIPOすることの意義はどのように捉えておられますか?
石垣:私を含めた創業メンバーは元々国内最大手の人材会社出身なので、自分たちの手で改めて社会から認められる会社を作り上げたいというモチベーションは持っています。ただ、最も大きいのは一緒に頑張ってくれている社員の存在ですね。彼らが人生を賭けて仕事をしたいと思える会社にしていきたいという思いが、IPOを目指す原点です。
転職が当たり前の時代にはなりましたが、やはり安定企業で長く働きたいという志向の方はまだ数多くいらっしゃいます。特に技術系のメンバーは会社が大きくなればなるほど安心するので、そこは確実に実現したいと思っています。また、業界の中でクライアントの知名度も上がり、さらなるビジネスの提案機会も増えると思います。
良質なディスカッションは、人材育成にも直結する。
西村:今まさに中期経営計画を議論しているところではありますが、IPO後の展望についてもお聞かせください。
石垣:1つ大きく考えているのはグローバル展開です。海外で事業展開しようとしているクライアントも多いですし、国内の少子高齢化が進んでいく中でグローバルの人材活用もさらに活発になっていくでしょう。上場することで海外企業との提携もやりやすくなると思うので、ここは力を入れていきたいですね。
あとはやはり、IPOするということは社会の公器になるわけですから、今まで以上にSDGsの視点から社会貢献を果たしていく必要があると思っています。人材派遣をキャリア形成の場としてうまく活用してもらえるような仕組みを作っていくことや、社会に広く受け入れられるよう業界基準の底上げなど会社としてやるべきことは増えますし、逆に言うとそういったことに取り組みたいという人材を広く募っていくこともできるはず。それぞれの時代に合わせて進化させていくつもりです。
クライアントとその先に広がる社会や世界、そしてキットで働いてくれる社員の皆さん。すべての関係者にとってより価値のあるグループに育てていきたいと思っています。
西村:人材ビジネスにもいろいろあると思いますが、キットは特に社会貢献や人材育成の意識も高いですよね。
石垣:まさにそれこそが企業としての責任であるという考えです。また、社員の育成・成長はあらゆる企業にとって永遠のテーマだと思いますが、この点でもAPさんにはしっかりとフォローいただいています。
以前の株主は、基本的に私と話をしながら進めていくスタイルでした。でも今は私と西村さんのコミュニケーションが増えたことに加え、各プロジェクトの会議で現場のメンバーも直接APの皆さんと議論させてもらっています。レベルの高いディスカッションができることは刺激になりますし、成長のための良い機会になっているようです。
西村:それは嬉しいですね。
石垣:ただ、APさんとの資本提携を検討している方に1つお伝えしておくと、初めてのファンドがAPさんだと少し大変かもしれません。出資前のデューデリジェンスもそうですが、実際の協業が始まってからも本当に細かい現場レベルまで入ってきてくれます。だから、もし少しでもグレーな経営をしている部分があれば、絶対にバレます(笑)。
当社は事前の身体検査を済ませていましたし、ファンドが替わったことによる社員の戸惑いもありませんでしたが、オーナー企業からいきなりAPさんだったら苦労したかもしれないですね。
西村:面白い見方だと思いますが、もちろん初めての会社さんでも大丈夫ですよ。たしかにキットさんは2度目のファンドだったので、ある程度は我々の使い方をご理解いただいていたのかなという感覚はあります。また、現場の方々とお話するなかで、我々に対する恐れより、もっと自分達のことを知って欲しい、かかわって欲しいといった雰囲気を感じました。だからこそ過度に慎重になりすぎず、入口から現場レベルの方々と協業する機会を増やしました。とはいえ、当たり前ではありますが、お付き合いする先としてはファンドに慣れていない会社の方々が圧倒的に多くなります。その場合は、入口でより慎重に、経営陣の皆さんと相談しながら設計しますので、初めての方もご安心ください(笑)。