小山 夏生 (シニア アソシエイト)
2020 年 7 月、アドバンテッジパートナーズに参加。小売業(ウォッチニアングループ)、製造業(エナジーウィズ)などの投資案件を担当。
大学卒業後、株式会社シグマクシスにて、総合商社及び小売業における業務・IT改革、デジタル戦略策定プロジェクト等に従事。その後、同社子会社である株式会社 SXA にて M&A アドバイザリー業務に従事。名古屋大学法学部卒業。
※本記事は2024年7月に取材したものです
アドバンテッジパートナーズ(以下、AP)には、29歳の時に入社しています。20代は自分のキャリアの可能性を広げる時期だと捉えていたのですが、30代以降は特定の領域に腰を据え経験を積み上げていくことが重要だと思い、20代後半になって転職を検討していました。PEファンド、さらにその中でもAPを選んだのは、これまで培ったビジネス・ファイナンスのスキルを活かしつつ、企業の「価値を高める」仕事に従事したかったことが理由です。
前職ではM&Aアドバイザリー会社で働いており、日々学ぶことも多くエキサイティングな職場ではあったのですが、アドバイザーの立場はどちらかと言うと「価値を移転する」仕事だなと感じていました。APは企業理念にも記されている通り、ファンドから離れた後も強く競争力を保ち永続的に成長していく企業へと発展させることを信条としています。またファンドさえ儲かればいいという発想は全くなく、投資先企業の価値を高め、ステークホルダー全員が経済価値を享受できることを目指しています。それはまさに企業及び社会的「価値を高める」仕事であり、キャリアを振り返ったときに自分自身が誇れる仕事になるだろうと考え、入社することを決めました。
入社前後で大きなギャップはありませんでしたが、自分自身のマインドチェンジには苦労しました。新卒で入社したのはコンサルティングファームで、前職はM&Aアドバイザリー。どちらもそれなりに高度な仕事だったと思いますが、当時はあくまでクライアントに助言する立場であり、最終的に経営の意思決定をすることはありませんでした。一方でAPでは常にプリンシパルとしての判断を求められます。ファンドとしてどの案件に投資すべきか全プロフェッショナルが意見を求められますし、投資実行のプロセスも投資後のバリューアップも、全て自分たちでやるべきことを決めていきます。
APに転職して1年ほどは、上司から「なかなかアドバイザー気質が抜けないね」というフィードバックを受ける日々でした。ファーストキャリアでコンサルタントを選んだのは、自分の特性として一歩下がって物事を俯瞰的に見ることが得意だったからです。今もその力が生きることもありますが、同時に自分自身の成長を阻害する要因にもなっている。この殻を打ち破るために、あらゆることを自分事として捉えて意思決定することを心がけています。ありがたいことにAPは、ジュニアメンバーにもどんどん判断を任せてくれる風土です。実践を通して着実に自分のスタンスを変革することができていると思っています。
他ファンドでは投資実行と投資後のバリューアップ支援のチームが異なる会社もありますが、APは基本的にソーシング、投資実行、投資後のバリューアップ支援、エグジットまで同じチームが担当します。その分やりがいも大きいですし、当事者意識もさらに高まりやすいです。私自身はまだエグジットまでは至っていませんが、投資先でIPOを目指している会社もあり、本当に幅広い経験を積ませてもらっています。
現在は2社の投資先企業のバリューアップに携わっています。1つは産業用と自動車用蓄電池を製造・販売しているエナジーウィズ。もう1つが高級腕時計及びブランド品のリユース事業を行っているウォッチニアングループです。前者はレゾナック(旧日立化成)の一事業部門だったものをカーブアウトし、新会社を設立するところから出資、支援しています。連結売上高1,000億円超、従業員も4,000人以上という非常に大規模な案件で、プロセスも複雑で大変でした。
会社そのものを新しく作るわけですから、社名を決める必要もありますし、これからどんな会社にしていくのか、ビジョンや理念もゼロから策定していきました。事業部門を切り離すので、経理財務、人事総務、法務、IT等の本社機能も不足していました。経営人材の外部招聘や独立会社としての組織体制整備、経理財務体制の確立、そしてデータドリブンな経営を実現するためのDXの推進等、企業価値向上に向けてさまざまなプロジェクトを推進しています。
エナジーウィズは成熟市場のグローバルプレイヤーであり、事業運営・意思決定のひとつひとつの複雑性が高い一方、ウォッチニアングループは急速に成長している企業で、日々PDCAを回しながらみんなでトライしているという感覚です。業態も規模も歴史も異なる2社を同時に担当するのは大変ですが、だからこそ自分自身も急速に成長できている実感があります。
投資実行前にはあらゆるケースを予測しますが、実際に経営に携わると想定外のことも数多く起こります。その都度自分の知恵を総動員させる必要がありますし、新たな投資も常に検討している状況なので、モチベーションが下がることはないです。もちろん投資先企業に対しても、資金をお預かりしている投資家に対しても大きな責任を負っていますから、決して楽な仕事ではありません。しかし、それ以上の醍醐味を味わうことができています。
ウォッチニアングループは国内ロレックス取扱高が第2位だったのですが、昨年第1位のクォーク社をグループに迎え入れ、圧倒的な業界トッププレイヤーとなる経営統合が実現しました。本件は、事業規模の近い同業2社の経営統合であり、PEファンドが株主として間に入らなければ成立しえなかった業界再編であったと思います。若くしてそういった業界や社会にインパクトを与える仕事に携われるのは、APならではだと言えるのではないでしょうか。
PEファンドに興味はあっても、具体的な働き方が見えずにハードルの高さを感じている人もいるかもしれません。これができるようになったら、あるいはMBAを取ったら挑戦しよう、そんな風に考えている方もいるでしょう。そういう方々に私の経験からアドバイスできることがあるとすれば、挑戦するなら早い方がいい、ということです。
PEファンドのプロフェッショナルは、ビジネス、ファイナンス、リーガル、ストラクチャーなど多岐に渡る知見が必要である一方で、全てを自分一人でカバーする専門性を持つことはできないし、必要もないと思います。それよりも、ファンドのリターンを最大化するための課題を特定し、投資先や各領域の専門家の方々を巻き込みながら、実現までをマネージしていくことがより重要だと考えています。先ほど私は自分の強みを「一歩引いた目線を持っていること」だとお伝えしましたが、当事者として意思決定するためには、後ろではなく“一歩上の目線”を持つ必要があります。私もまだまだこの力を身に着けているというにはほど遠いですが、これは当事者としてやってみなければ身につきません。もしもPEファンドに興味があるならできるだけ早く行動を起こすことをお勧めします。