株式会社Eストアー
50億円の売上高を、わずか1年で100億超に。革新させた決め手とは。
株式会社Eストアーは1999年の創業後、2001年には早々に大阪証券取引所ナスダックジャパン市場(現・JASDAQ)に上場。その後もサービスを拡充させていましたが、この数年は売上高・利益ともに横ばいの状態が続いていました。そこで、企業を再度成長軌道に乗せるため、上場企業への上場維持型マイノリティ投資を専門とするアドバンテッジアドバイザーズ(アドバンテッジパートナーズのグループ会社・以下AA)が投資および経営協力を実施。投資実行の背景や今後の成長戦略について、AA取締役・パートナーの古川と、シニアアソシエイトの金子が語ります。
(2020年07月インタビュー記事を元に編集)
この記事のポイント
- 企業を変革する2つの柱。
- 売上高倍増を実現したM&A。
- 事業基盤を盤石にするグループシナジー。
基本情報
- 投資時期:2018年11月
- 業種:IT(EC総合支援)
- 企業タイプ:上場企業
- 背景:次の成長ステージに向けた支援
踊り場状態にあった上場企業を、再成長の軌道に乗せる。
古川:最初に石村社長とお会いしたのは2018年の3月です。当時のEストアーは売上高50億円で営業利益は5億円程度、無借金で豊富なキャッシュがあり、特定の資金ニーズがあるわけではありませんでしたが、社長としてはさらに伸ばしていきたいという意向をお持ちで、我々がご提案することになりました。
金子:2013年頃までは、主力である中小企業向けのSaaS型ECサイト構築事業の成長により急拡大したのですが、その後は競合激化や子会社売却により低迷。新事業である集客・マーケティングサービスは順調に拡大していたものの、ECサイト構築事業のダウントレンドを打破するまでには至らず、過去5年は売上高も利益も横ばいという状況でした。
古川:当時の時価総額は50億円ほどです。IT業界では年率10~20%成長を実現している企業や、時価総額数百億円という会社も数多くあります。Eストアーも、再度成長軌道に乗せることができれば時価総額200億円、300億円も達成できると判断し、既存事業を伸ばしていく戦略立案と、M&Aによる拡大という2軸でご提案しましたところ、1回目のミーティングからかなり興味を持っていただきました。「真剣に向き合って企業成長を考えてくれる人だ」と感じてもらえたのではないでしょうか。
金子:先ほどダウントレンドとお伝えしましたが、EC市場自体は拡大していますし、Eストアーの展開する「ショップサーブ」はシェアNo.1でもあり、今後も一定以上の収益を確保できる見込みです。マーケティングサービスを含めた既存事業の成長戦略を描きつつ、一方で良好なバランスシートを活かしたM&Aを実施することで大きな成長を遂げられるだろうと判断したことが、投資を決めた要因のひとつになっています。
M&Aを有力な戦略の一つとして実行いただけるような信頼関係の構築
古川:2つの軸で検討を進めていた経営戦略のうち、既存事業の成長は正直当初想定よりも時間がかかっています。BtoB営業中心に新規顧客を増やしたり、紹介元を開拓したりといった活動の継続が必要です。一方、2本目の柱であるM&Aについてはこの1年半で劇的な成果を上げています。2020年の1月と3月に2社のM&Aを実行し、グループ売上高は50億円から100億円強へと倍増。売上の足し算だけでなく、グループシナジーも生まれ始めています。
金子:Eストアーに直接持ち込まれるM&A案件に加えて、APグループがリレーションを持つ証券会社やブティックファーム経由の案件情報も提供し、検討機会を増やしていきました。1年間で検討した総数は44社。どのようなターゲットにM&Aを行うべきかは、バリューチェーンをマッピングして、候補企業を幅広く議論、検討を重ねて絞り込んでいきました。1件1件真摯な検討をするなかで、少しずつ進むべき道がクリアになってきて、最終的に2社がしっかりハマったという印象です。AAとしては、事業デューデリジェンスの実施、法務財務デューデリジェンスに関する助言、バリュエーション支援、条件交渉支援、M&A資金調達手法の助言、開示資料作成支援、PMI支援など一気通貫したサポートをおこなっています。
古川:実は当初、Eストアーの代表はM&Aに興味はあるもののプライオリティは高くないという状態でした。しかし1年間の地道な共同作業により少しずつ信頼関係を築き上げ、前向きにご検討いただけるようになったのです。こうした点も、AAならではと言えるのではないでしょうか。通常のコンサルティングファームのように数ヶ月程度のプロジェクトでは、本当は意義のあるM&A案件だったとしても、クライアントの意識を変えるところまでには関われないことが多いと思います。日常的に向き合って本音で議論を重ねたからこそ、実行できたと考えています。M&Aの経験が豊富な企業であれば話は違いますが、今回のようなケースでは、我々が入った意義が大きいと感じています。
金子:時間軸の長さと深さは大きいと私も思います。少なくとも2年以上は支援させていただきますし、古川は社外取締役としても入っています。経営会議にも現場レベルの会議にも参加して、真剣に深く議論する。このあたりが、信頼のベースになっているのではないでしょうか。
本店ECの普及に貢献し、三方よしの社会を実現する。
古川:M&Aが単なる売上の足し算になっては意味がありません。特にIT業界は競合を買収してシェアを上げるといった戦略の意味合いは薄く、周辺ビジネスや顧客層を広げることでシナジーを発揮することが重要です。その意味でも、今回のM&Aは非常に有効だと考えています。もともとEストアーは中小企業向けの専門店ECサイト構築サービスからスタートし、集客・マーケティングサポートへと領域を拡大してきた企業です。そして今回、大企業向けECサイト構築を主力とする株式会社コマースニジュウイチと、大企業向けマーケティングサービス事業を手掛ける株式会社ウェブクルーエージェンシーのM&Aを実現しました。大手にも中小にも、ECサイト構築と集客という両面からサポートできるようになったわけです。3社ともに以前は取り逃していた顧客層や領域の商談を紹介しあうこともできますから、これまで苦戦していた既存事業の成長にも寄与できると考えています。
金子:実行してから数ヶ月しか経っていないのでまだまだこれからではありますが、手ごたえは非常に大きいですね。2件のM&Aによって強固な事業ポートフォリオを形成することができたので、現在は新しい中期経営計画の策定を支援しています。グループ経営基準の策定や、全社戦略に基づく各事業戦略立案や数値化、シナジー創出の具体的なプロジェクトに鋭意取り組んでいるところです。
古川:Eストアーは、本店ECに強いプライドを持っている企業です。モールECだとコモディティ化しやすいですし、相応の手数料もかかります。オンラインではなくリアル店舗だとしても、棚から追い出されたら売上は激減してしまいます。それが自社ECで集客もできるとなれば、地方のメーカーや個人レベルで商売を始められる方々にとっても良いことですし、プライス面でもお客さまに還元しやすくなるでしょう。いいものを作れる人や企業がよりやすく、買い手も幸せな世の中になっていく。そのサポートができることは我々にとっても非常に嬉しいですね。